カット

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「お客様? カットは終わりましたよ。」 はっと目覚め時計を見たら、 すでに日付は変わっていた。 「気分はいかがですか?」 頭がぼーっとする。 心に大きな穴が空いたような空虚さが全身を支配していた。 「大丈夫。確か俺は記憶をカットしてもらった。 何故かは分からないが、とても大事なものだったような…。 むなしい。 俺は、誰なんだ?」 「お名前の記憶はあるはずですが。それとご両親や親友、学歴やお勤め先の記憶もあるはずですよ? もっとも、奥様と共通する知り合いの方の記憶はやむなくカット致しましたが。」 「結婚?俺が?」 「ええ、お客様の中には既に存在しない事実です。 誰に言われてもお客様は認めないでしょう。これからもずっと。」 「なんで妻がいる記憶をカットしたんだろう。確かに頼んだのは俺だ。 けれども、妻とやらがどんな人間なのかすら分からない。 俺は、大切な人の記憶を自ら捨てた?」 「あるいはそうですね。そうかもしれませんね。」 「帰る家まで失った。」 「ご両親がいるご実家に帰るか、親友を頼るか、ですかね? 事情を理解してくだされば助かるでしょうね…。」
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