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仕方なく、床屋を後にした俺は職場で仲のよい後輩のアパートに厄介になった。
「先輩。いきなり何かあったんですか?
奥さんに我慢できなくなって家出しました?」
この後輩は話しやすい奴で、俺の事は何でもこいつに話していた。
おそらく、俺は妻とやらの愚痴もこいつに話していたのだろうか?
納得してくれた様子で、泊めてもらえた。
翌日、知らない女が血相を変えて職場に来た。
「一晩連絡もよこさないで何やってたの!?
心配するでしょ!!」
いきなり怒鳴らた。
職場も騒然となるが、事情は大体分かっているようだった。
課長が間に入り、面談室で三人で話する事になった。
「キミ、いくら何でも黙って一晩帰らないのは良くないよ…。奥さんだって心配するに決まっているだろ?」
「いやあ、それが帰ろうにも家が分からないので、後輩の鈴木に泊めてもらったんです。」
「まあ、それなら鈴木に確認すればわかる事だからな。」
「いきなりどうしたの?私あなたに何か嫌な事でもしたの?」
「奥さん、言いづらいんですが敢えて申し上げますと、彼は奥さんとの生活に悩んでいたみたいでしてね。私も彼から何度か相談を受けた事がありました。
彼も、奥さんに自分の気持ちを話さない所があるし、奥さんの気持ちを考えた事もないなどと言うもんですから、夫婦はそういうもんじゃないよと諭しておったんですよ…。」
「課長…」
「いいから。ここは私に任せてもらえないか?第三者が入る事で話がまとまる事があるんだから。」
課長に相談してた…?
そんな事課長言ってくれたっけか?
いや、確かに課長は頼りになる人だから相談ぐらいしたかも知れない。
「なんで私に言ってくれなかったの?」
目の前の初対面の女は泣きながら呻くように言葉を発した。
「彼は、遠慮して言わなかったのだと思います。奥さんを傷つけたくなかった。
本当は優しい男ですから。」
「そんな事、私が一番良く分かってますから。
子どもの頃から私に気遣って優しくしてくれて、私に怒ったことなんかほとんどなくて…。
私にはもったいないくらいの人だった。
結婚できた時は本当に幸せだった。
よく考えたらつらく当たった事もあったかもしれない。
けどあなたは、心が広いから、私、ただ、甘えてただけだよ…。」
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