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「そんな…。」
女性はその場で泣き崩れてしまった。
「もう、お分かりでしょうが、お客様は奥様に関する記憶すべてをカットしました。
もちろん、お客様のたっての希望で。
私はいくらか助言しましたよ。
…そんなに奥様と居るのが苦痛でしたら離婚をしたらどうかとは言いましたが。
しかし、お客様が希望する限り私はカットを拒みませんから。」
「この店を訴えます。」
「構いませんが、お客様は自分でカットを希望した事は記憶にあるはずです。
それに、お客様とのやりとりは全て録音してありますよ?
看板に明記してあるはずですが。
ご夫婦揃って看板をよくお読みにならないんですね。」
我々は、客間の窓から看板を見た。
店主がご丁寧にも双眼鏡を手渡したので二人で看板を見てみると、料金などに比べ小さい字だが確かに書いてあった。
「さて、お客様。今のお気持ちは?」
「後悔している。俺の隣に座っている人が俺のことを大切に思いながら、信頼しながら俺と過ごしてきた事が客観的に分かったから。
俺はなんでこちらの女性を忘れたいと思ってしまったのか、いくら考えても分からない。」
「あなた…。
なんとかならないんですか?
何でもします。
例え、この人が私の事を嫌いだったとしても、私との記憶を取り戻して欲しい。
離婚されても諦めます。
でも、この人の記憶に私がいない事だけは…。」
「お客様が何故奥様を忘れたいと思っていたかは、録音された記録を聞けば理解できると思いますが。思い出すことはあり得ませんけどね…。
それに、余計なお世話ですが、
今から関係を一から築き上げたらいかがですか?時間をかけて。」
「今から?」
「はい、今日この日からお客様は過去に囚われず、かつての被害妄想に縛られずに、客観的に奥様と向き合うのです。
失って後悔したのであれば新しく作り上げればいいのです。
その上でお客様が奥様をどう思うかは、お客様次第ですから。
おそらくうまくいくかとは思います。
前と違って、奥様の気持ちを理解したでしょうから。
お客様も奥様にご自分の気持ちを話していけばよろしいのでは?」
「私も、あなたの気持ちをよく理解してなかった。
分かった気になってた。ごめんなさい。」
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