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「たまに、カットした記憶をどうしても戻して欲しいとおっしゃる方には、エクステをお勧めしております。
だいたいは泣く泣くエクステされて帰られますね。
カットする前に、記憶の重要性は十分にご説明して、熟慮していただけるよう促すのですが、だいたいの方は、『いいからやれ』という方ばかりでして…。」
「別に望むならカットするって言ってなかったか?」
「基本的には、希望があればカット致します。それが仕事ですから。
ただ、個人的にはわざわざカットしなくてもいいのにと思うような場合は他の方策も提案致します。
お客様にもカット後のリスクなどは説明差し上げたはずですが。」
「…分かったよ。
もういいよ。
しっかり儲けてるんだな。
阿漕な商売してるよ…。」
「いやあ、どちらかと言えば記憶のエクステが本業ですかね…。
かなり手間がかかるから、なるべくしたくないんですがね…。
ですからお二人にも、エクステしなくても夫婦関係が良好になるよう、ご提案致しました次第でして…。
エクステ、要りませんよね?」
「要りません。私たちの思い出は今から私たち二人でつくりますから!
帰りましょう。守さん。」
野上依子は守の手を握りしめ、守を引っ張っていった。
守は、店主にお辞儀しながら引きずられていった。
「今度はうまく行くといいですね…。
いや、大丈夫そうかな…。」
店主は懐からSDを取り出した。
「本当はカットした時に記憶を電子データ化して保存しておくんですよね…。
それを脳内に埋め込むだけだから大した手間もかからないですし。
気に入らない客には1単位10万円とか言ってぼったくるんですけどね…。
あの夫婦のように他の方法を提案なんかまずしない。
せっかく記憶をカットして手に入れた金ヅルを手放すなんてもったいない真似なんか…。」
店主は微笑みながら、『野上』と書かれたSDを手で二つに折りゴミ箱に投げ捨てた。
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