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信頼できる、心の友と別れた。
確かに、私の名前は「心」なんだが、この場合は私の友という意味ではなくて、心から信頼できるいわばソウルメイト的な友という意味で…。
なんてくだらない事でも考えてないとまたあれが頭に浮かんでくる。
彼が気持ち悪い吐息を吐きながら、ベッドの中でおぞましい動きでくねくねしている。
思わず、道端の電信柱の根元に嘔吐してしまった。
わけもわからず、涙が出てくる。
口の中が胃液の酸っぱさと涙のしょっぱさで気持ち悪くなってきた。
「お嬢さん、これで口をすすぐといいですよ?」
目の前の男性は、ミネラルウォーター入りのペットボトルを差し出してきた。
いつからそこにいたんだろうか?
「私は怪しいものではありませんよ。
すぐそこが私の店です。
庭を掃除していたら、うら若き乙女が嘔吐しているではありませんか!
店に置いてあった手付かずのペットボトルがあったので、急いで持って来ました。」
ペットボトルを受け取り、フタを開ける。
確かに手付かずだったみたいだ。
グビグビと飲み込んで、残った水で口をすすぎ、電信柱に吐き出す。
一息ついた。
しかし、うら若き乙女ってアンタ…。
いや、感謝しないと。
明らかにいい人だ。
どこかのキモい元彼と同じ性別とは思えないくらいに。
「あ、ありがとうございました。
すいません。見苦しい所見せてしまって…。」
「いや、いいんですよ。お気になさらないで下さい。
おや?失礼ながら顔色がよろしくないようだ。
店で少し休んで下さい。
これは提案ではなく、お願いです。どうか信用いただけませんか?」
そこまで言われたら断るのも失礼なような…。
目の前の男の「お願い」に従うことにした。
…どうみても床屋だ。私には縁がない所だ。
あらためて男を見た。
男は白いシャツに黒のベスト。黒のズボン。長い髪を整髪料で後ろに撫でつけて、襟足あたりで紐でしばっていた。
顔は悪くないかな…。うん。
年齢不詳な顔だけど。
人あたりはよさそうかな?
私は奥の客間に案内されて、ソファーに座るように促された。
「どうぞ、少しずつお飲み下さい。」
甘い蜂蜜レモンだった。
温かい。
あれ、また、涙が出てくる。
恥ずかしい…。
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