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「髪伸びてきたね。切ってきたら?」
「そうだなあ…。
頭切ってもらいに行ってこよう。」
「髪を切るんでしょ?
頭切ってどうするの?
大変な事になるよ?」
「あ、間違えた。髪切りに行くって言いたかったんだ。
…そこらへんは、雰囲気で分かるだろ?
言い間違えただけだから。」
「おかしいからおかしいって言っただけだから。
そんな言い間違いしないし。普通。」
「床屋行くから散髪代ちょうだい。」
「小遣いあげてるんだから、自分でやりくりしてよ?」
「だって、今月出費多かったから。」
「どうせ、飲み会でしょ?
今回だけだから。はい。」
「愛してるよ。ハニー。」
「さっさと行け。」
妻からもらった三千円。
薄い財布に押し込んだ。
散髪代すら自由にならない身分。
妻は美容院で自分の三倍の金額を払っているが。
それを言い出したら家庭内紛争勃発となる事は長い夫婦生活で身に沁みて理解していた。
こちらが頭を下げてれば円満に事は運ぶ。
あれ?新しい床屋さんかな?こんな所にいつの間にかできたのか?
料金が表示されている看板に目をやった。
カット、顔剃り、洗髪含めて…。
千円!?
安い。
小遣い二千円が手に入る。
ここにしよう。
今日はついている。
「いらっしゃいませ~!」
「お願いします。」
「お客様。今日はどのように切りますか?
頭頂部ですか?
前頭葉ですか?
海馬ですか?
偏桃体ですか?
それとも…」
「冗談にしても面白くないよ。それ。
本気なら、あなたの頭をCTで輪切りにしたらどうですか?」
「すいません。
もちろん冗談です。」
「真面目にお願いしますよ?
そういうの嫌いな客だっているんですから。」
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