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「自己責任か…。」
「そうです。
何せ、カットされた記憶は主観的には『最初から存在しなかった事実』として認識されますから。
カットされた後は、いくらその記憶を提示されても思い出す事はありません。
忘却とカットは別物なんです。」
「しかし、俺にはそこまで、なかったことにしたい過去や事実なんてないよ?」
「それはきっとお客様が現実や過去を糧にして、前向きに生きていらっしゃるからでしょう。
それならそれで何も問題ございません。」
「特に何もない、平凡な人生だからな。
もしかして、記憶全部カットしたら別人になれるのか?」
「お客様…。失礼ながら気は確かですか?
そんな事をしたら今までの人生で得たものどころか、人格まで失う事にもなりかねませんよ?
知識や常識、倫理観をカットしなければ、生きていけない訳ではないのでしょうけれども。
ただ大半の常識や倫理観は過去の経験で培われたものも多いはずです。
ですから、記憶全部カットした場合、ただのパソコンが歩いているだけのような状態になりかねませんよ?
そうなったら、自分の意志で行動すらできなくなるかも知れません。
もちろん、私はそんな事はしたこともありませんし、依頼された事もありません。
お客様がはじめてです。
そのような事をおっしゃった方は。」
「じゃあ、結局何をカットしてきたんだよ!あんたは!」
「失恋の記憶とか、酒の席での恥ずかしい失敗とか、そんな他愛のない…あ、いや当人にとっては大事なんですけど。
…まあ、そんな記憶から、いくらカウンセリングや精神療法を繰り返しても改善しない過去のトラウマとか。
需要はありますし、適切にご利用されている方もいらっしゃいます。
別に、どうしてもお客様がすべての人生経験を頭からカットしたいのであれば、すべてカットいたします。
それがお客様の選択なのであれば。」
「わかったよ。別に本気で言った訳でもないから。
普通の『髪の』カットだけでいい。顔剃りとシャンプーもね。」
「はい。かしこまりました。
何かカットしたい記憶があったときはご用命ください。」
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