スフィアローゼ

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フェルディナンドは神殿の一階、博物館となっている広大な敷地をくまなく歩き回っていた。とは言え、何を探すという目的もない。ただ観光気分でいられない性分というだけだ。 ここにいないといけないと言うのなら、見聞きしたものを端から端まで、綿密に報告書にまとめ、軍の上層部につきつけてやろうと思っていた。 まずは目に付いたパノラマで、現在地と、辿った道を確認してみる。街の入口、オレンジを購入した広場、長い石段、途中の展望スペース、そして神殿。随分とよくできたパノラマだ。これを作成した人物は、随分と几帳面な性格であることが窺える。 それにしても、 急に立ち止まると、はしゃぐ町民の子供がぶつかりそうになって、足元をすり抜けて行った。幼い声で文句を言ったようだが、フェルディナンドは聞いていなかった。 王の謁見は、やたらとあっさりしたものであったと思う。 長い石段を登ると、三つの建物が収まる外壁の門で簡素な手続きを取り、二階の王の間に通された。部屋には赤い絨毯が敷き詰められ、高い天井から、ステンドグラスの光が差し込む。 17代目オルフェ王は豪奢な赤いマントに身を包み、煌びやかな王冠を載せていた。だが他は、広場で大声で歌っていた男や、石段で話しかけてきた商人と同じような、普通の中年の男にしか見えなかった。 浅黒い肌には加齢によるしわが目立ってきて、潤いのないパサパサの黒髪、体つきも中肉中背だ。王座がやけに巨大に見える。 唯一、国王らしい威厳を感じられる特徴は、その太く伸びやかな声だった。 王はその声で形式的に、この国の掟を読み上げた。 1つ、むやみに命を奪うことは許されず 2つ、肥沃な大地は神のものなり 3つ、王家の宝に触れるべからず フェルディナンドは王の言葉を頭の中で復唱しながら、 帝国で読んだ資料は一言一句違っていない様だと思った 「君は我が国の大事な同盟国からの特使だ。歓迎しよう」 あからさまに形式的な言葉で締めくくると、謁見は終わった。 王はフェルディナンドが出ていくのを待たずに、マントを翻すとすぐに隣の執務室に引っ込んでしまった。 随分せっかちな国王だ。 フェルディナンドは半ば呆れたが、自分も長話などしたくはない。深々と一礼すると、美しいアミナ王妃の視線が襟足あたりに突き刺さるのも気にとめず、案内役の兵士に連れられて王の間をあとにした。
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