スフィアローゼ

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かわいた、ほこりっぽい風が石造りの街に吹き付ける。 舗装されていない砂利道の細かい砂を巻き上げ、吸い込むと喉が焼け付く感じがする。無邪気な子供のような風は石の迷路を駆け回り、1mmの隙間もない、行き止まりの石組みの壁にぶつかってはたちまちに消える。 長いこと雨が降っていない。灰色の石壁にからみついて、雨季は青々としていたシダも、今はその生命力を失っている。 しかし、どんなに風がからからに乾燥していようとも、どんなに雨が降らずとも、休日の広場は大賑わいだ。あちこちで笛や太鼓のメロディーが鳴り響き、現地の特産品や、野菜、果物、軽食など食べ物の出店が所狭しと並んでいる。 広場の真ん中に赤や紫のヴェールを腰に引っ掛けた娘達が躍り出て、響き渡る音楽に合わせてしなやかに体を揺らす。ガタイのいい男たちが大声で歌いだす。 そこに大荷物を背負い、片手に酒瓶を抱えた浮浪者のような男が現れた。踊る娘たちをじっと観察している。ぐっと琥珀の液体を乾いた喉に流し込むと空瓶を置き、大荷物から何やら取り出すと、自分も脇に座りこんだ。 取り出したのは黒い板と、白い粉。男は白い粉を自分の人差し指に付けると、黒板にこすりつけた。街に駐在している新任の衛兵が、不審に思い覗き込むと、驚いた事に指で器用に絵を書いている。真っ黒な黒板には、あっと言う間に踊る娘達が生き生きと描かれた。 どうやら男は浮浪者ではなく、画家らしい。しかもかなり腕がいい。若い衛兵や他の見物人がわっと歓声を上げると、男は照れて鼻の頭をこすった。チョークで少し白くなったのは、言うまでもない。 この国はスフィアローゼ。温暖なサルヴィン大陸の中央に位置する。 神の末裔である、17代目オルフェ王が統治する国。
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