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フェルディナンドは歩を進めながら、周囲の景色と前方の道を観察した。
壁と石段の色は延々と同じではなく、頂上に近づくにつれ緑がかった色になっている。
最初はつたが絡んでいるのかと思ったが、この乾燥地帯で草が青々と茂っているはずもなく、どうやら石自体の色だった。薄緑色の美しい石は、上方に進むにつれ割合を増していく。さながら天国の階段だ。
しかし、まだまだ薄緑色の石は眺めるばかりで、足元にはひとつもない。先は長いということだ。
普段の鍛錬のおかげで、体力には自信があったが、焼け付く空気に体じゅうがからからに乾いてたまらない。喉は甘い果実よりも、冷たい水を欲していた。じりじりと照らし付ける太陽が憎らしい。
「あんた、軍人かい?」
追い越した商人風の男が、後ろから声をかけてきた。背負った大きなかごには、豪奢な布や飾りがいくつも詰められている。もう大分体力を消耗したようで、ひどく汗をかいている。どうやら宮殿に向かうらしい。
「物騒な物持ってるじゃねぇか」
フェルディナンドのベルトには、旧式の銀のリボルバーが携えてある。
「ただの調査員だ」
そっけなく答えると、商人は肩を大げさに肩を竦めてみせた。どうやらただの好奇心だったらしい。
現在世界では、要人の暗殺、国家転覆を企むテロリストや、戦争を起こしたくてたまらない自分勝手な武器富豪で溢れている。全体的に見ると危険だが、新しく帝国の同盟国となったこのスフィアローゼでは、神経質な我が政府の、心配の種になりそうなことは何一つない。至って平和そのものに見える。
空気はこの季節やや乾燥しすぎだが、街を取り囲む大森林があり、その先の大河は溢れるほどの水を蓄える。肥沃な土地にも恵まれ、農作物も豊富にできる。人々は従来穏やかで、明るい。
ため息をつく。否、もちろん平和であるということは願ってもないことなのだが…。
フェルディナンドが思案を巡らせてると、横顔を見ていた男は、不思議な笑みで表情を歪めた。
「兄さん、この国の伝説を知ってるか?」
今更何を言っている、と思う。
「光り輝く黄金の柄杓の中…」
「違う違う、そっちじゃねぇよ」
言いかけたフェルディナンドを遮り、男は激しく首を降る。
動作がいちいち大げさな男だ。
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