スフィアローゼ

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「罪人を捕まえるのは、王家の、もっというと兵士たちの仕事だが、牢獄も王立裁判所も城下町にある。危ない連中を王のお側に置いとくわけにはいかねぇからな」 やはり根も葉もないうわさということだ。 「それに、あの広い神殿の一階は博物館になってんだ。知ってるか?そんであそこは開放されてるから、人が毎日わんさか出入りする。地下牢どころか、地下に続く階段、扉すら見たって言う奴はいねぇよ」 そうなのだ。 この小高い山の頂上にある建物は3つだけ。宮殿、神殿、それとつい最近王がめとったという若い女王のために作られた、薔薇の塔。 巨大な神殿は、きらびやかに作られた宮殿の三倍近くの大きさがあり、王は普段その二階にある王座で国務をこなす。珍しいが、神の末裔と言われている国王なので、その伝説故かもしれない。 そしてその巨大な建物の一階は全て、博物館として市民に解放されており、神々の遺した物品やこの国の歴史にまつわるものを誰しも直に目にすることができる。 誰が考えたか、なかなか舌を巻く。 おそらくこの開かれた政策が、人々の国教への信仰を厚くしているのであろう。 さらに、この事実の意味するところは、この国の中枢である神殿に秘密はない。王家に後暗いところはなにもないというところだ。 フェルディナンドは三度目のため息をつく。 どうしてこんな平和な土地に、自分は調査に出されたのであろうか。 前回の任務で何かミスをしただろうか。思い出せない。 「おっと、やっと半分だ」 若干うつむいていた顔を上げると、男が言ったとおり石段が一旦終わっている。 見張り台があって、端から端まで繋がる広めのスペースは展望台になっていて、巡礼者や旅行者が群れとなって集まっている。絹のヴェールをまとった女性は、敬虔な信者なのであろう。目の前の景色に呆然と立ち尽くし、涙ぐんでいる。 フェルディナンドも木製の柵に手をかけた。しかし崖の縁部分に張り巡らされたそれは、大分頼りないので、体重を預けることは無論、できない。 今さっき居た、石組みの城下町。その周りをぐるっと囲い込む、大森林。その向こうにそんなに広くは見えない砂漠が輝き、そのさらに奥にはぼやけた山々が見える。山の裾野に見える水色の蛇。キラキラ光るそれは蜃気楼ではなく、本物の冷たい水を蓄えた大河である。 そして…
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