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最寄り駅に着いて、改札を出る。
『じゃ、また後で連絡するな。』
人目を憚らず、由哉は私の髪を撫でながらおでこにキスをしてきた。
もうっ、みんな見てるじゃない!……なんて思いながらも、つい頬は緩む。
由哉がダウンジャケットのポケットに手をしまって歩く後ろ姿を、気が済むまで見送ってから、私も反対方向にある会社に向かう。
『さむーい。』
両手を合わせて、息を吹きかけると、目の前が一瞬白くなった。
階段を下りて信号を待つ間、コートのポケットに片手を入れる。
ん………?
あ、これ、昨日のサンタからの。
明るい朝の日差しが当たったそれは、10センチくらいの水色の正方形。
白いリボンが、風に揺れる。
有名なブランドの箱なのは、一目瞭然。
とりあえず、持ち帰るしかないよね……。
左腕にかけたバッグに仕舞おうとした時、同じ箱が入っていた。
手に持った箱と、バッグにある箱を見比べながら、横断歩道を渡った。
『おっはよー。果名。』
後ろから私の腕に絡まってきたのは、同僚で同期の千紘(チヒロ)。
『わっ……お、おはよう。』
手に持ったサンタからの箱を落としそうになった。
『って、すごーい!由哉くんからだよね?』
私の手元に、千紘の視線が移る。
『そう、かな?』
違うんだけど。
いま説明しきれないから、肯定はしないけど否定もしない。
『……さっきもらったんでしょ?』
少し顔を近づけてきた千紘が、確信している表情をする。
『さっき、って?』
『仲良く電車でチュー。改札でもおでこにチュー。』
千紘が、プッと冷やかすように笑って、口を手で隠す仕草をした。
会社に入ってからも、しばらく千紘と目が合わせられなくて。
もう、本当……恥ずかしい。
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