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『遅いっ!』
やっぱり、千紘に睨まれた。
『私がアポなしの来客対応してる間に、由哉くんといなくなっちゃうんだから。』
と言ってから、舌を出す。
本気で千紘が怒ってるとは思ってなかったけど……長めに席を外したのは事実で、謝るように手を合わせた。
〈お昼、どこにいく?〉
来客が途絶えた時は、隙を見てメモで会話する。
〈寒いから社食?〉
千紘から返ってきたメモには、可愛らしい文字が予想通りに並んでいた。
OKなら、そこで終わらせるのもルール。
今日のランチは社食ね。
今朝は、パンを1つしか食べなかったから、あと1時間半空腹に耐えなきゃ。
膝掛けをかけ直して、手元の書類に目を落とした。
『いいですねぇ。是非ご一緒させてください!』
聞こえてきたのは、由哉の声。
打ち合わせを終えて、世間話をしているようだ。
座ったまま頭を下げて、視線を戻したら、エントランス近くに並ぶソファーに座って話し始めた由哉と一瞬視線が合った。
お昼を告げるチャイムが鳴ると、松崎さんに挨拶をして帰りかけた由哉が引き返して近付いてくる。
『地下駐車場の番号教えてもらえますか?千紘ちゃん、果名のことよろしくね。また今度一緒に飲もう。』
地下駐車場のロック解除番号を聞き忘れたみたい。
こっそり名前で呼んでくれることも、本当は禁じられてることだけど、恋愛の醍醐味だと思う。
『果名、連絡してね。』
ウインクしてから、去っていく後ろ姿。
『今朝のこと、思い出したでしょ。』
また千紘がコソッと冷やかしてきた。
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