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『イヤっ……嫌だよ。』
抱きしめるというよりも、体当たりして、ぶつかって引き留めた背中。
『……果名?』
さっきの宮瀬さんに負けないくらいの強さで、彼の腰に腕を回して抱きしめる。
腕力じゃないって、いま気付いた。
想いの強さなのかもしれない。
相手を受け入れるときは優しく、嬉しさを共有する時は軽くハグするように。
そして、失いたくない気持ちを伝える時には……こんなにも強く。
『今度が来ても、振ったりしないから。昨日みたいなこと、もう言ったりしないから。』
『それじゃ、果名がいつまでも次の恋に進めないよ。』
引き締まったお腹にある私の手を、上からそっと包み込むその手の温度が愛しい。
背中越しに感じる鼓音は、私と似たようなリズムを刻んでいる。
もう、次の恋は始まってるのに。
『果名、俺は果名に幸せな恋愛をしてほしいんだ。もし、今の俺のことを選んでくれるとしても、そんな恋愛ができるって約束できない。心から愛せる人を、隣に置いてほしいから。』
簡単に私の腕は解かれて。
もう1度振り返ってくれた宮瀬さんの顔には、涙の代わりに笑顔があった。
『俺のこと、本当に好きだと思ってくれた時、また会おう。それなら、もう振らなくてもいいでしょ?』
無理矢理作った、無邪気な笑顔に似合わないピース。
何も言えなくなってしまった私。
生まれたての好きな気持ちを伝える言葉が浮かばなくて、歯痒い。
『約束だよ、果名。』
……最後に、唇の温度が2人分になった。
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