5

6/21
前へ
/200ページ
次へ
『果名、ミルフィーユ落ちそうだけど。』 フォークに乗せたままの一口を、英絵が心配そうに見ている。 『あ、ごめん。なんか疲れてるのかも、私。……で、なんだっけ?』 無理やり作った笑顔は、自分でも引きつりそうな感じが手に取るように分かって、逆に気持ちが落ち込んでいく。 好きな人が、他の女性といるという事実に打ちのめされそう。 片想いとは勝手なもので、宮瀬さんの隣にいるのが自分じゃないと嫌なんだ。 自分のことは棚に上げたくなる。 少し前までは……自分の気持ちがまだ由哉にあった頃は、そんなこと思わなかったのに。 次、いつ会えるのか分からない。 前みたいに、いつでも連絡してねって言ってほしい。 きっともう、それは叶わないから……。 望んでも無理なことに変わってしまったのだと、自分に言い聞かせているのに。 私が視線を送ったその先で、宮瀬さんも私のことを見つめていて。 そして、あの日みたいに人差し指を唇の前で立てて微笑んでいる。
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1184人が本棚に入れています
本棚に追加