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冷静でほんの少し冷たい瞳。
きっと、もう触れることのない、柔らかい唇。
『楓、聞いてる?』
『俺、本当乗り気じゃないから。とりあえず親に話して、この話は白紙にさせて。』
その女性の問いかけに返した言葉は痛烈だ。
瞳の鋭さも、声のトーンも、言葉のチョイスも。
『俺、親のために相手を決めるなんてしたくないから。会社継ぐ気もないし。そのために一緒になっても、お互い幸せじゃないって。』
『でも、これは決められたことなのよ?』
一緒になるって……結婚ってことだよね?
宮瀬さん、結婚するかもしれないんだ。
『悪いけど、本当にごめん。俺の親がなんて言ったのか大体想像はつくけど、俺はそんなつもりないから。』
『嫌よ。私、楓のことがすきなのに……勝手なこと言わないで。』
修羅場だね……と呟く英絵の隣で、私は小さく頷くことしか出来ない。
幸せになってほしい。
好きな人には、幸せに……。
だけど、気持ちを諦めることは出来そうになくて……行き交う人たちに視点を合わせて、無理やり笑って、英絵との会話に集中しようと努力するんだ。
もうこれ以上、宮瀬さんのことを追ってはいけないんだってことがよく分かったから。
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