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今日はアポイント無しで、年末の挨拶回りに来る人が予定よりずっと多い。 半休を取り消して正解だったかも知れないな。 『おはようございます。今日10時から、海外事業部の松崎さんとお約束しているのですが。』 顔を上げたら、由哉がいた。 10時のアポイントは確かに由哉のいる会社だったけど、お連れの方の名前だけ聞いていたから驚いた。 『…あっ、はい。少々お待ちくださいませ。』 再び仕事モードに戻った私は、内線でアポイントの確認をした。 『青木、先に行って。俺、ちょっと。』 と言いながら、一緒に来た人が携帯電話を片手に、またエントランスを出ていってしまった。 『青木様、ご案内致します。』 2年経っても、ドキドキする。 特に、こういう時に私は弱い。 仕事中だから、公私混同しちゃいけないんだけど。 『お願いします。』 って、由哉が勝ち気な目になった気がして、今朝の出来事が頭の中で勝手にリプレイし始めるんだ。 エレベーターを待つ間、後ろから聞こえるのは由哉を見て騒ぐ女の子の声。 鏡貼りのエレベータードアに映った由哉の爽やかな笑顔が目に飛び込んできた。 それは、私の好きな笑顔。 エレベーターが到着を知らせる音を軽快に鳴らした。 私と由哉しかいない、限られた空間。 ドアが閉まるなり、由哉が真後ろに立った。 『果名、このエレベーターって監視カメラ付き?』 『勿論、付いてますよ。』 『そっか。残念。っていうか、今くらい俺の彼女に戻んないの?』 『……。』 『なに怒ってんの?』 『……。』 目的階に着いてドアが開くと、由哉を先に降ろしてから私が先導して海外事業部の廊下を足早に歩く。 『あ、山科(ヤマシナ)さん。』 『伊藤さん、お疲れ様です。』 いつもより2割増で笑顔を返した。
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