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通りにはそれほどの人はない。
向かう方向に、見るからに荒れた寺がある。
「丁度いいから、一手御指南いただけないか?」
そでを引いていた腕を逆につかみ、枯れ草の始末をする者さえいない風情の境内へといざなった。
「何を」
「だから、一手御指南を願いたいと」
「放してください」
珪薊児が、秦盟を突き飛ばすようにして身を引いた。
秦盟は、乗ったとみて、相手に拳を突きだした。
さらりとかわされる。
型の通りに、数度突き出す。
ことごとくかわされる。
次は、変化を加え、足ばらいを入れ、さらに速度をあげて拳をたたきこんだ。
ひとつも、わずかにかすることさえない。
「さすが!」
息をはずませながら、ひとまず引き、落ちていた枯れ枝を蹴って宙にあげ、手に取った。
さっと構えてから、力をこめて打ちこむ。
今度もかすりもしない。
二度、三度と振っても、よけられるばかりであった。
すっかり上気して、
「来ないのか?」
相手は、くすっと笑い、すっと姿を消した。
いや、消えたように見えただけだ。
それほど、すばやかった。
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