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◇
試験まであと十日あまりとなったある日、珪薊児の家を訪ねると、母親が留守だったらしく、妙に背の高い娘が出てきた。
秦盟よりも高かったから、相当なものだ。
しげしげと見つめるなど礼儀に反するので、あわてて顔をそむけた。
「薊児はいるだろうか?」
「お待ちください」
声までも似ているように思えた。
しばらくして、いつもの灰色の服を着た薊児が出てきた。
「さっきのは、妹ごか? それとも姉上? 貴兄に似て背が高かったな。あれでは母上が苦労するだろうな」
何の気もなく言ったのが、気にしていた事であったらしい。
いきなり、頬を平手でたたかれた。
「侮辱する気ですか」
「他意はないんだ、許してくれ!」
平謝りに謝ると、相手は、何か含んだように笑った。
「貴兄、よく人から、にぶいといわれるのではありませんか?」
「何を言いだす。学業は常に上位だ。やすやすと首座を譲ったことはないぞ」
相手は、さもおかしいというように、声をあげて笑った。
「ここまで笑わせてくれたお礼です。何かひとつ、いうことを聞きましょう」
「ならば今度、他の武芸を見せてくれないか? 拳だけではないのだろう?」
「わかりました。いずれ、機会を見て」
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