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◇
いつもの荒れ寺は、蓮華寺といった。
寺の名としては珍しくない。
荒れてはいるが、誰もいないというわけでもないらしい。
昼にしかのぞいたことはないが、線香の煙が立ちのぼっていることはあった。
だが、その日はいつもと様子が違った。
本堂に灯かりがともされ、何だかざわざわとしている。
「法事かな」
「よそに行きましょう」
境内に足を踏み入れてすぐ、二人はきびすを返した。
そして、川沿いの茶店で茶を飲んだ。
「試験まで、あと何日あるのです?」
「試験は二月朔だから、あと十七日か」
「及第できそうなのですか?」
「当然、そのつもりだ」
「御文運を」
普通ならそう聞けば、官吏になってからもひいきにしてくれとか何とかいうものだが、珪薊児はそれに類する事を何もいわなかった。
そこがまた、秦盟には心地よかった。
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