第一章 出会い

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◇  別れて宿坊に帰った秦盟は、細帯につけていた学章がないのに気づいた。  太学の学章は通符を兼ねる。  宿坊への出入り、講堂への出入り、食事から、物品販売時の割引まで。  なくせば不便この上なく、悪用されでもすれば目も当てられない。  秦盟はあわてた。  宿坊への出入りや食事は、顔もわかっており、許してもらえたが、ずっとなしというわけには行かない。  届けを出して、再発行してもらうには、時間も金もかかる。  行った所はと考えると、私塾の後、珪薊児に会いに行き、蓮華寺で引き返し、茶を飲んで少し話をした。  特に帯を解いたこともなく、どこでなくしたのか思い当たらなかった。  すでに日は暮れている。  光ばかりは春を感じさせるようになってきてはいても、日が落ちれば冬の寒さだ。灯火を手に入れたところで、小さな学章ひとつを見つけ出すのは困難だろう。  学章は、一見、一銭銅貨に見える。穴に紐を通して細帯につけるのが慣例だ。中には、大切なものだからと胸元にしまう者、銭袋に入れる者などもある。  その形から、銭と間違われて拾われていることもままある。
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