プロローグ

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「……及第者は、三拝せよ!」    厳粛な声がかかると、広間に整列して並んだ、礼服姿も初々しい今回の登階及第(しかんごうかく)者たちが、一斉にひれふし、体を起こし、またひれふし、また体を起こす……    壇上の玉座で拝礼を受けているのは、(きょう)の皇王、李阿明。  皇王の服をまとっているというよりも、豪奢な刺繍の中に埋もれているといったほうが正しいような少年王である。    三年に一度の厳しい試験に合格した者たちは、今日から官吏となり、皇王に忠誠をささげ、国の政治を動かす任につく。  ことに、前方に並ぶ成績上位だったものは、将来は皇王の左右に控えて絶大な権力を握る可能性がある。たとえそこまで出世しなくても、最低でも高級官僚にはなれる。未来は約束されているようなものだ。    拝礼しているみなは、同じように礼服をまとい、幅広の帯をしめ、冠をつけている。その冠に、一様に花を挿しているところが、通常の儀礼とは異なる。その花は、一枝か、多くても二枝。造花であれば、金の芙蓉花、銀の玉蘭花。生花であれば、梅や桃など、見栄えのする風流なものである。  花帽(かぼう)という、この栄誉の時のためだけの慣習だ。    その中に。    ただひとつ、多くのみなとは異なる花をつけている者があった。    薊花(けいか)。    どこにでもある、黒っぽい色をした野の花だ。    がくが大きくて、花びらは少し見えているだけ。葉にも茎にもがくにも棘がある。    風流でもなければ、とりたてて愛らしくも美しくもない。    それが、こともあろうか、合格者の最前列の中央。    最も優秀な成績で合格した者がつく位置。
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