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「筆頭及第者・秦盟、答辞を述べよ!」
かけられた声とともに、薊花をつけた花帽をかぶった若者が前に進み出た。
色のやや黒い、厳しい目つきの男だ。均整の取れた体つきといい、きびきびとした身のこなしといい、筆頭で試験に合格できるほど頭が切れるだけではなく、何がしかの武芸をたしなんでいるのがはっきりとわかる。
三歩、四歩、五歩… ゆったりと壇上の皇王に近づく足が、突如、駆け足になり、ひらりと、壇上に跳びあがる。
と同時に、右手が花帽の薊花にのびる。
キラッと空気が光ったかと思うと、その手には小ぶりの、黒刃の剣が握られていた。
悲鳴があがり、近衛兵たちが動き出す。
その、みなの目前で、皇王に刃が突きつけられた。
「民の声を聞け!」
張り上げた声はよく通り、殿外にまで聞こえたと後の史書に書かれるほどであった。
「そちには朕は殺せない」
少年王の、声変わり中の声は大きくはなかったが、黒刃は、ぴたりと止まった。
あちこちから悲鳴と怒声がわきあがり、近衛兵たちが幾重にも二人をとりまく……
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