13人が本棚に入れています
本棚に追加
セシルが久方ぶりに故郷であるセウンデ村へ帰ろうと思ったのは、遠く離れた港町ベルーシにまで、セウンデ村の不穏な噂が届いたからであった。
活気溢れる港町を出て、一路故郷を目指し街道を歩く。
ベルーシから遠くなるにつれ、道は未舗装の砂利道に変わり、人の往来も減っていった。
やがて砂利道もなくなり、地面に草と土が露わになった頃、セシルはセウンデ村に到着した。
半年ぶりに踏む故郷の土は足に優しく、一瞬、幼少時の思い出が脳裏をよぎったセシルだったが、すぐに村の異変を感じ取った。
セウンデ村は、人口わずか百人程度の小さく貧しい村だが、そこで暮らす人々はおおらかで、ゆったりとした空気の流れる居心地のいい所である。
……いや、所であった、という表現が今はしっくりくるのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!