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そんな不安を振り払うかのように、セシルは足を速めた。
意識的に最悪の事態を考えないように歩を進めていたセシルであったが、その光景を見た瞬間、絶望が頭をよぎった。
そこには、村の薬売り夫婦の家が建っていた――筈であった。
だが今、家があったであろう場所に、セシルは立っていた。
足元には、かつては屋根や壁であったと思われる瓦礫が散乱している。まるで、上から強い力で押し潰されたような崩れ方。
いてもたってもいられなくなったセシルは、自分の家に向かって走り出した。
薬売り夫婦の家からさして遠くない所に、セシルの家はある。
そこに老いた両親と、彼を待ちわびる小さな弟たちと妹たちがいるのである。
彼らのために、セシルは一人、港町ベルーシまで働きに出ているのだ。
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