セウンデ村

9/20
前へ
/20ページ
次へ
「……親父は?」  セシルの帰郷に、母と弟妹は出てきたというのに、この家の主の姿が見当たらない。  セシルは嫌な予感で心臓が脈打つのを感じた。 「今、ちょうど村の男達が集まって話し合いをしているところなんだよ」  しかし母から返ってきた言葉は予想を裏切るもので、それはセシルを安堵させた。    「そうか。……いつからなんだ?」  気持ちを切り替えてセシルは訊ねた。  母親は、居間に置かれている食事用の大きな木のテーブルに手を突いて、息を吐いた。 「……ひと月くらい前からだったかね。ある日突然、やつはこの村に現れたんだ。陽が落ちるとすぐ、裏の山から下りてきて、毎日一人ずつ……」  そこで母親はいったん言葉を区切った。 自分の発する言葉に怯えているかのようだった。 「村人を毎日一人ずつ、喰っていくんだよ」  血の気の失せた顔でやっとそれだけ言うと、母親は黙り込んだ。 セシルも眉間にシワを寄せ、黙っていた。  まさか自分の村にモンスターが棲みつくとは……。  セシルは苦虫をかみつぶしたような表情になった。  しかしそこで、彼はある違和感に気付いた。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加