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「なるほどねー。片想いなんだ?」
「な……!」
再びの問い掛けに、私は思わず大きな声を出してしまった。
同時に、その声を聞きつけただろう篠原さんが、キッチンからヒョコッと顔だけ出す。
「ど・う・か・し・ま・し・た・か?」
口パクで問い掛ける篠原さんに、私は無理矢理作った笑顔で首を振った。
それより、何で其処まで読まれてるの?!
携帯を握る手に変な汗が滲んで、つるりと滑り落ちるそれを、慌てて拾い上げる。
「あ、痛ぅ……」
素早く動いた為なのか、走る鈍痛に今日何度目かの頭を抱えるポーズで固まった。
『あれ、もしかして何処か具合でも悪かった?大丈夫?』
電話越しのその口調に、僅かな真面目さが混じった気がする。
『ごめんね。それなら今日は良いや。また連絡する』
「そうしてもらえると有難いです……」
頭痛のせいもあるけど、この状況でこの男と話なんかしてて、篠原さんに変に誤解されるのが嫌だった。
抑揚の無い言葉で締め括る私は、キッチンの方が気になって仕方ない。
片想いかあ……。
そうなんだよね。
扉から漏れてくる蛍光灯の点滅する光が、何だか今の燻っている自分を表しているみたいで溜息が漏れた。
『それじゃ……と、そうそう、体調悪いなら本なんか読んでないで早く寝なきゃ駄目だよ?』
改めて突き付けられた言葉で凹む私に、まるで子どもにでも言い聞かせるような穏やかな声が届き、そして電話は途切れた。
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