03.チャラい男は暇してる

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夕方、定時に上がった私は、夕焼けの残る駅前通りを歩いていた。 暑い盛りの八月の空気は暮れかけの時間帯でも、その猛威は凄まじい。 冷房の効いた電車から降りたばかり、と言うのもあるかもしれないけど。 私はアスファルトからの照り返しに若干の目眩を覚えつつ、ふらふらと自動ドアをくぐった。 途端、カラリと涼しく、紙とインクの独特の匂いを含んだ空気が顔を撫でた。 はー、生き返る。 ドアが閉まると同時に、人や車の喧騒が一気に遠ざかる。 さざ波のような心地よい静けさに、私の不快指数は急激に減少。 昨日の続きは……と。 私はところせましと並ぶ本棚をすり抜け、文庫コーナーへ足を向けた。 学生時代から読書が好きで、やや活字中毒気味の私は、こうやって会社帰りに本屋に立ち寄るのが趣味の一環だったりする。 いつもは週末に来る事が多いけど、昨日一気に読破した話の続きがどうしても気になって、こんな週の半ばに来店。 ローマ人の話、ローマ人の話と……。 あ、あった、あった。 私はズラリと並ぶ濃紺の背表紙に、少しショックを受けた。 ヤバイなこれ三十巻もあるし、出費が痛いな。 何となく衝動的に買った一巻を悔やんだ。 出会わなければ、嵌まる事も無かったと思うと何だか溜息が漏れた。 三冊くらいにしとこ。 他にも読みたい本あるし。 私は悩んだ挙げ句、二~四巻までを手に取った。
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