09.世話焼き女は寛げない

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――人生は長くない。時間は待ってくれない。 向島さんに言われた事を何度も頭で繰り返し、その度に「そうだよなあ」と納得しながら、最初の一歩を踏み出さずに二週間。 いや、本当に納得はしてるんだよ? だから、"踏み出せない"じゃなくて"踏み出さない"なんだ。 だって、自分の倍近く人生を送ってきた人の「直ぐに五十路だ」なんて言葉は、やっぱり重みが違うから。 経験者の発言は説得力がある。 この私のゴム印だって、最初は篠原さんや新谷ちゃんのみたいにピカピカだった。 けれど、気づけば五年でこんなに黒ずみ、油断してるとすぐに係長や所長のみたいに、新しく名前シールを貼らないと判別が出来ない状態になるんだろう。 きっと向島さんが言いたいのは、そういう事なんだと思う。 立ち止まろうが、前に進もうが、時間は人の都合に関係なく流れてしまう。 だったら、 どうせ流れてしまう時間なら、苦しい気持ちよりも、充実した気持ちで過ごしたい。 そんな風に気持ちを整理するのに一週間かかった。 そして、更に一週間が過ぎる今日、私はその一歩を踏み出す事に決めたのだ。
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