13.苛つく女はbarに行く

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「あー。やっぱりなあ。土曜の朝、気付いたら領収書が無くてな……君に電話しかけたんだが、"休日を邪魔するなよオッサン"なんて配慮の無い中年に思われても不本意で……」 この人、まだ酔いが醒めていないような気がする。 机に広げられた鞄の中身を片付けながら、ペラペラペラペラ立て板に水のごとく喋る係長。 私は適当に相槌を打ちながら自分の席へ座り、目の前のレターケースから、目的の書類を選び出す。 《休暇変更申請書》 A4サイズのそれに鉛筆で印を書き込み、私は机の引き出しからスタンプボックスを引っ張り出した。 新谷、新谷とー……。 名前のゴム印を辿る指が一瞬止まる。 …………。 何かでも、酷くない? さっきのモヤっとするのは、イラッとする前兆だったのかもしれない。 くどいようだけど、確かに「気にしないでください」と言ったのは私だよ? だけど、これじゃあまるで、「気にしない」じゃなくて「何も無かった」になってるみたいだ。 不本意なカミングアウトではあったけど、何だか完全にスルーされたみたいで、ちょっといただけない気分。 気にしてるのが私だけだと思うと、無性に腹が立つ。 私ばかりが心を動かされて告白に至ったのに、その告白でさえ篠原さんの心は全く動いてない。 何この差! これならまだ避けられる方がマシ……ではないけど、でも、なんかズルい。
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