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「そもそも領収書というのは……」
「あ、係長。この書類、新谷さんに渡してきます」
何故か領収書について熱く語り出した係長にストップをかけ、私は軽く会釈をして席を外した。
付き合ってたら日が暮れそうだ。
何か物足りなさげに見詰めてくる、中年特有の目尻に小皺のある瞳を尻目に、私は机の間をすり抜ける。
「新谷ちゃん、今大丈夫?」
パソコンに向かう新谷ちゃんを覗き込めば、彼女は手を止め此方を見上げてきた。
「忙しいとこごめんね?さっき言ってた話、この申請書の鉛筆で丸を付けた欄だけ埋めて、また出してもらえるかな?」
私は書類を差し出し、記入の説明をする。
「あ、分かりました~。今日、ちょっとうちの係長、本社行ってるんで~明日印鑑戴いてから出しますね~」
新谷ちゃんの視線の先には空っぽの机。
いつもなら、妙齢のクールビューティーが座っているんだけど。
「冴子(さえこ)さん、今日は戻らないんだ」
「はい~。会議の後、勉強会に出て直帰になってますよ」
「そっか。別に書類は木曜日までに出してくれたら構わないから」
卓上カレンダーに印を打つ新谷ちゃんを一瞥した私は、再び机の間をすり抜けて自分の席に戻った。
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