13.苛つく女はbarに行く

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◆◇◆ 「柏木さん、お疲れ様です」 夕方、タイムカードを棚に戻す私の横に並ぶ篠原さんは、自分のカードを選び取ると、機械にガチャンと差し込んだ。 「あ、お、お疲れ様です……」 本当に相変わらずの声かけ。 篠原さんはカードと時計を見比べると、速やかにそれを棚に戻した。 「そうそう……柏木さんって傘二本持ってたりしないですよね?」 部屋を出ていきかけた篠原さんは、思い出したかのように振り返ると、やや期待するかのような目で此方を見た。 「あ、もう降りだしてるんですか?」 「霧雨みたいなのですけど……さっき下で中田さんが傘無くて困ってたんで」 「ああ、中田さんですか」 中田さんは近所に住む警察OBさんで、守衛のアルバイトとして勤務しているおっちゃんだ。 一瞬、自分が使うのかと思って複雑な気分になりかけたけど、よく考えたら車で通勤の篠原さんには傘は必要ない。 けれど、それでも何となくモヤモヤしてしまうのは、私の心が狭いだけ? 「それならロッカーに折り畳みが入れてあるんで、中田さんにちょっと待ってもらうように伝言良いですか?」 私は極力感情を表に出さないように笑顔を作った。
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