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◆◇◆
篠原さんの言葉通り、外に一歩出ると湿った空気と共に細かい雨の粒が辺りを包んでいた。
通用門で中田さんと別れた私は、水煙に霞む運河沿いの歩道を歩く。
どんより垂れ込めた灰色の空に、点き始めた街灯の橙。
霧雨が反射させる光は、ぼんやりと辺りを照らす。
信号のリズムで通りを行き交う車は、路面の水溜まりをはね飛ばしながら私を追い越した。
うわっ!?
何とかスカートに被害が及ぶ前に避けた水飛沫。
けれど、足元を汚す茶色い泥跳ねだけは何ともならずに、ストッキングに水玉を作った。
無神経で無関心な車の動向。
…………。
ため息一つと共に沸々と湧きあがる感情に、また一つ水玉模様がパンプスを彩る。
――パシャパシャパシャパシャ。
戸惑いの無い足取りで橋を渡れば、前方に見える青い看板。
煤でも被ったみたいな灰色に染まる空間に、一つだけ鮮やかに佇むそれは、涼やかに私を誘った。
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