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◆◇◆
「せんぱーい」
職場の通用門を入ろうとした所で足を止めた私は、声のした方――――駅とは反対方向から、小走りでやってくる新谷ちゃんへ向き直った。
「おはようございます。先輩がギリギリって珍しいですよねぇ?」
連れだって歩き出せば、彼女はクリンとした目をパチパチと瞬きさせつつ首を傾げる。
つられて、落ち着いた黄色のラリエットもスルンと揺れた。
流石、いつもオシャレに気合いが入っている彼女だと思う。
九月最初の出勤日から、既に秋の雰囲気を取り入れている辺り、余念が無い。
「んー。ちょっと寝坊しちゃって。今日、こんな天気でしょ?暗くて時間を勘違いしたんだよね」
私はチラッと曇り空を見上げては、再び隣へと視線を移す。
本当は、何だかんだ言って気が重いのは事実で、のらりくらりと身支度をしていたら、ついつい家を出るのが遅くなったんだけど。
けれど、本当の理由なんか言ったら、金曜日の話もする羽目になるだろうから、私は「たまにやらかすんだよね」と笑って誤魔化した。
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