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「それはそうと、先輩……」
「え、何?」
守衛さんに社員証を出しつつ頭を下げつつ、それから新谷ちゃんにも相槌を打って、何だか朝から首が忙しいな。
私は社員証を鞄にしまうと、正面の階段へ足を掛ける。
「今年もバースデー休暇を、二十日じゃなくて十日に変更したいんですよ~」
「ああ、そっか。九月だもんね」
階段を上る私は、後ろにいる彼女へと振り返りながら、うんうんと頷いた。
「でも、折角の誕生日なのに、毎年変更もつまんないよね」
「そ~言ってくれるのは、先輩くらいですよ。でも~仕方ないです。〆日に生まれた宿命ですからね~」
そう、日の丸ハムの〆日は毎月二十日で、特に彼女の持ち場の経理はその前後はすこぶる忙しいのだ。
九月二十日生まれの彼女は去年も当日は出勤し、わりと暇な時期に代休をとる形でバースデー休暇を消化したのだった。
毎年本当に可哀想だと思うけど、他部署の事には首を突っ込めないから仕方ない。
でも、それに関して文句や反発が出ないのは、彼女の偉い所だと思う。
自分が二十歳の頃なんか、学生を謳歌していたと言えば聞こえは良いけど、やれレポートは面倒だの、講義は眠くて退屈だの文句ばっかり……。
…………。
同じ二十歳でも、学生と社会人はやっぱり違うな。
私は事務所のドアを開いて新谷ちゃんを促しつつ、その後ろ姿に頼もしさを感じた。
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