13.苛つく女はbarに行く

8/20
前へ
/35ページ
次へ
◆◇◆ 「あー。柏木くん、懇親会の領収書は君が持ってるんだったな?」 着替えてタイムカードを押す私に、セカセカ声を掛けてきたのは係長。 見れば、係長の机の上には、財布と携帯、手帳、名刺入れ、ハンカチにのど飴の袋、車のキーなど、恐らく係長の鞄の中身と思われる品々が拡げられていた。 一体何事? 私は一瞬固まって瞬きを繰り返した。 「あ、柏木さん。おはようございます」 不意打ちのその声に、固まっていた私は、飛び上がるくらい驚いた。 と言っても、実際はほんの少し肩がビクッとしただけだけど。 私はバクつく心臓を宥めながら、真横を見上げる。 タイムカードを押す篠原さんの笑顔は、相変わらず眩しかった。 「あ……はい。おはようございます」 顔、変にひきつって無いよね? なるべく平静を装って挨拶をしたつもりだけど、若干声が震えてしまうのは、気まずい気持ちの表れだ。 「そう言えば、この前のドリンクどうでした?結構効きませんでしたか?」 「え!?あ、ああ。あれは、はい!」 急に振られた話、私はしどろもどろに返答を返す。 「それは良かった。実は姉もあれを愛用してまして、柏木さんもどうかなあって思ったんですよ」 篠原さんは、カードを所定の位置に戻すとそのままススッと部屋を出ていった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加