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◆◇◆
「あー。柏木くん、懇親会の領収書は君が持ってるんだったな?」
着替えてタイムカードを押す私に、セカセカ声を掛けてきたのは係長。
見れば、係長の机の上には、財布と携帯、手帳、名刺入れ、ハンカチにのど飴の袋、車のキーなど、恐らく係長の鞄の中身と思われる品々が拡げられていた。
一体何事?
私は一瞬固まって瞬きを繰り返した。
「あ、柏木さん。おはようございます」
不意打ちのその声に、固まっていた私は、飛び上がるくらい驚いた。
と言っても、実際はほんの少し肩がビクッとしただけだけど。
私はバクつく心臓を宥めながら、真横を見上げる。
タイムカードを押す篠原さんの笑顔は、相変わらず眩しかった。
「あ……はい。おはようございます」
顔、変にひきつって無いよね?
なるべく平静を装って挨拶をしたつもりだけど、若干声が震えてしまうのは、気まずい気持ちの表れだ。
「そう言えば、この前のドリンクどうでした?結構効きませんでしたか?」
「え!?あ、ああ。あれは、はい!」
急に振られた話、私はしどろもどろに返答を返す。
「それは良かった。実は姉もあれを愛用してまして、柏木さんもどうかなあって思ったんですよ」
篠原さんは、カードを所定の位置に戻すとそのままススッと部屋を出ていった。
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