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◆◇◆
玄関の扉を閉めるのと同時に、握られた手をグイッと引っ張られる感覚。
――部屋に寄っても良い?
バスが発車する直前の囁きが、今もまだその余韻を残しているのに、
「……やっぱり、これ、シャンプー変えたんだね」
なんて首筋をなぞる息遣いに、益々私の脈拍数は跳ね上がる。
「図星って顔してる」
見詰めてくるレンズ越しの瞳がスイッと細くなり、その口許が微かに笑ったように見えた。
「あ、いや……これはたまたま」
どうしよう。
無茶苦茶恥ずかしい。
たまたまシャンプーが切れて買い物に行ったら、たまたまいつものやつが無くて……。
「たまたまでも、これを選んでくれたんだ?」
目についたのは、先週末彼の家にあった銘柄で、なんとなく選んだ――――いや、違います。
どうせ違うのを買うなら真似をしようなんて、クダラナイお子様女子の心理というか……駄目だ、顔を上げられない。
27歳にもなって、彼氏の愛用品を真似する。
これを痛い女と言わずして、なんと言おう。
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