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◆◇◆
「ちょ……なんで、こうなるんですかっ」
カーテンから漏れてくる、淡い人工的な光に浮かぶその影。
頭の先でカチャリと響く、何かを置いたらしいその音。
風を切る音と一緒にほんの数秒だけ増す外からの光に、遮る物が無くなった彼の瞬きが見える。
「なんでって、そうしたくなったからだけど……」
再び静寂が訪れれば光も落ち着いた様相を見せ、薄暗い室内に戻る。
見下ろしてくるその表情は、未だ目が慣れてこないせいかよく分からないけど、近付くそれが、私の唇に触れた。
「嫌?」
耳朶に、柔らかく噛み付いてくる歯の感触と、吹きかかる息遣い。
私は、肩を竦めるようにしてそれをかわしつつ、その頬を両手で挟んで制止する。
「嫌とかじゃなくて……明日も早いんですから」
「うん。分かってるんだけどね」
「だったら……」
――追い返してくれなきゃダメだよ?
前に、そんなこと言ってましたよね!?
私は抗議の声を上げながら、尚もその頬をぐにっと押さえた。
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