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時間調整の為なのか、バスはエンジンが停止した状態でその場に留まる。
シンとした薄暗い車内は、乗客も少なく、後部扉の脇にギターケースを抱えた若い男性客が一人と、運転席の後ろに後頭部が一つ見えるだけ。
おもむろに視線を外へと移せば、日の暮れ果てた夜が広がっていて、車のヘッドライトが幾つか通り過ぎた。
途端――――
外と中の明るさの度合いが逆転する。
最後の車が遠ざかると、窓に映るのは車内の様子。
…………?
窓を介して絡む視線に、私は通路側へと向き直った。
けれど、間近にあるその瞳は、変わりなくジッと此方を見ている。
…………。
私は何度か瞬きを繰り返した後、俯いた。
な、何か照れる。
膝に置いた鞄の上で、右手と左手が所在なく遊ぶ。
よく考えてみたら、肩と肩、膝と膝、私の左側と倉橋さんの右側がぴったり密着しているわけで……。
自覚と共に直ぐ顔に出る私は、それを隠す為に髪を束ねていたゴムを取り、スルリと落ちてきた髪を梳く振りをして頬を押さえた。
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