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◆◇◆
駅に向かって伸びる、少し人通りも落ち着いた道。
初冬の冷たい夜風が、暖房に慣れた頬に滲みる。
視界に映る連なった街灯の青白い光と、半歩前で風に遊ぶ黒い髪。
「明日も早出って、また何処かに出掛けるんですか?」
「…………」
「倉橋さん?」
「え、あ……何?」
「いや、明日の早出も出張なんですか?」
「あー、うん。いや、明日はチーフミーティングだよ」
店を出た後も、何だか様子がおかしい。
いつもなら時折飛んでくる筈の視線が、さっきからずっと前を向いたまま。
耐えきれず投げ掛けた質問も何処かうわの空で返され、自然と漏れた溜め息。
やっぱり話なんかしなければ良かった。
――話くらい聞くけど?
これじゃ、ホントに聞くだけで、しかも何だか気まずいというか、
――溜め込むと高崎さんみたいに……。
かえってモヤモヤの原因が増えただけなんですけど!
首をもたげたイライラの芽。
私は、
彼の手を握る力を緩めて――――
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