12.倉橋和也という人間

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廊下に出た瞬間ひんやりした空気に包まれる。 暦の上では春だと言うけど、やっぱり空調が切れてる場所は少し肌寒い。 同じく節電モードの一つおきに灯る蛍光灯の明かりの下、私は手にした電話を耳に押し当てる。 小さく息が漏れ、見つめた先には非常口の緑色の光。 「もしもし?お疲れ様です」 『あ…………』 電話口から聞こえたのは、ノイズ混じりの言葉ではなく息が漏れたような小さな声。 …………。 けれど、それきり声は途切れて、鼓膜を叩くのは風の音なのか呼吸の音なのか、兎に角「ボッ、ボボッ」なんて空気の塊がぶつかる音だけ。 緑色の人間マークが一度だけ明かりを落として、再び灯る。 遠くで窓ガラスがガタガタ震えた。
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