12.倉橋和也という人間

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だいぶ、日が長くなった。 もう一ヶ月もしないうちに、あそこの桜も咲き始めるだろうなあ。 単純にそんな感想からの行動だったけど、急いでいるように見えてしまったみたいだ。 だって、印鑑を押すスピードが少しだけ早くなったような気がする。 ――――ズズッ。 「あー失礼」 一際大きな鼻の音が響いたかと思うと、思い切り鼻をかむ様子。 苦しげに瞬きを繰り返し、懐から取り出した鼻スプレーをゴソゴソ。 「花粉症ですか?」 マスクはインフルエンザ対策だと思っていた。 私は、明日でも構わない入力作業をしながら質問を投げ掛ける。 「はい。毎年辛くて」 「そうなんですか」 「ええ。今年はインフルエンザで、まだ耳鼻科には行けてなくて……と、はい、お願いします」 「はい。ありがとうございます」
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