12.倉橋和也という人間 #2

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途切れた会話に瞬きを二回。 そう言えば今日はパソコン作業が多かったせいか、閉じた目が途端にじんわりと潤っていくのがよく分かる。 ゆっくりとした速さで何度か目蓋を動かせば、若干目尻に滲んだ涙。 ちょいちょいと、指先につくマスカラの黒を親指で拭ってスカートの裾を掴んだ。 廊下の先に、ぽつんと灯る消火栓の赤いランプ。 …………。 電話の向こうは相変わらず無言で、ただ、空気のぶつかる音が時折響いては、形容しにくい独特の通話ノイズに、耳が変な感覚に襲われる。 刹那―――― 頭の中に浮かび上がった何か。 私は思わず電話を耳から離す。 一定のリズムでカウントを繰り返している通話時間の表示。 ――あれ、どうかしたの?大丈夫? 手の中から問い掛ける小さな声。
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