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「携帯は圏外で使えないし、金も日本円じゃ意味ないし。………テストが役に立つ訳無いし」
折角のスマホも役立たず。この広大な荒野を見れば、狭くて小さな日本で無いことは明白。
せめて面白いことでも言ってみるかと思ったが、笑ってくれる人が居ないし、大して面白くない。
「そうか、夢だ!凄いリアルで分かんなかったけど、これは夢だ!確か夢の中で寝れば、目が醒める筈」
遂に現実逃避を始めようとしたその時、遠くから砂煙を上げながら、何かが近づいて来る。
意味も無く目を細めながら、その方向を凝視する。
ようやく何か判別出来る距離に入り、それが馬に跨がった人であるのが分かる。数は三騎。
珍しい光景に見入っていて、それが段々向かって来ていることを忘れていた。
しかもただの人ではない。よく見れば甲冑らしきものを身に付けているし、腰には剣が吊られている。極めつけは孫の一文字が入った旗。
そのまま動くことも出来ず、騎馬三騎は此処へとあっという間に辿り着く。
「そこの者。この辺りは賊が出て危ないぞ。早く帰れ」
賊っていうと、今で言う強盗みたいなやつだよな?そんなに治安が悪いのか?
「ええっとすいません。実はここに来たのは初めてで」
「なんだ旅の者か。そんなに強そうに見えないけど。……それならここから西に二里進めば、小さな邑があるから、今日はそこに泊まると良い」
邑?邑って村のことだよな?でもそれを使ってたのは確か……。
「あの、ちなみにここって何処です?」
「そんなことも知らずに旅してたの?ここは楊州の建業だよ」
「もしかして、大守は?」
「建業の大守は孫文台に決まっているだろう?」
「もしや孫の旗を掲げているあなたは?」
「孫堅は私の父だ。私は孫文台が長子、孫伯符」
さて、落ち着いて考えてみよう。孫文台とは、言わずと知れた孫家の柱、孫堅。孫伯符は、あの小覇王と呼ばれた、孫策。そしてその二人は、俺が寝る前に読んでいた、三国志に登場する人物だ。
つまり、これが夢でないなら、俺はタイムスリップしたことになる。
「どうしたの?急に黙り込んで?」
「孫策様。このような怪しい輩など放っておきましょう」
この孫策と名乗った人、よく見たら女なんだけど。絶対夢だろ。
「しかし、放っておいたら賊に襲われるのは目に見えてる。目覚めが悪いのよ、それじゃあ」
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