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ナツキは父親に毎度言われながらも、森へ行くことは止めなかった。行ってはいけない道理がナツキにはないからだ。
いつものように、防寒のために膝丈の外套を羽織り、目を光らせている見張りに見つからないよう森に入る。外からは見えない抜け道がいつもナツキを助けてくれるのだ。森へ入ってから六年、一度も見つからないのだから相当なものだろう。
「どうして分かってくれないのかなぁ。ちょっとは娘の言うこと、ちゃんと聞いてくれてもいいのに」
森を歩きながら不服を漏らす。六年間もその姫たちのことで口論しているが、親も子も自分の主張を譲らない。
「ちゃんと話したことないくせに」
初めて姫たちに会ったのは十歳の時。ショウキというナツキと同い年の友達を山へ捜しに行った時、魔物に襲われたところを助けてもらった。ハルキもナツキを追って山に入っていたので会っている。しかし魔物を追い払う不思議な力を持つ姫たちを、ハルキは受け入れられなかった。
「年取んないからってさぁ……もしかして妬み? 女の人みたいな悩み言ってたっけねー」
加えて姫たちは年を取らず、少女の姿のまま山に住み続けている。得体の知れないことこの上ないのは、村人から見れば頷ける要素だった。
しかし、それは誤解なのだ。確かに人ではないが、危害を加えることなど絶対にない。それは会っているナツキが一番よく分かっている。
それを何回言い続けても聞いてもらえない。受容してくれる姿勢さえない。
「頑固オヤジ。勘当でもなんでもすればいいのよ。私は絶対に屈しないからね!」
大声で叫ぶと小さな山彦が聞こえてきた。それに耳を澄ませていると、山彦とは違う声も聞こえた。鳴き声とでも言えようか。
ナツキは途端に青ざめた。よく聞くこの鳴き声は、危険度ナンバーワンを示す警告みたいなものだ。
案の定、その危険がナツキに襲いかかった。
魔物だ。
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