第1話 いつもの日常から

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「うん、今日ね、また怒られちゃった」 「そんなんいつものことじゃん」 「はっきり言われるとムカツキますが。今日はショウキのこと言われちゃった」 「ショウキ……」  ハンはその名前を聞いて少し考えるように視線を落とした。ハンはナツキの口から聞いただけで直接会ったことはないから、姿を想像しようとしたのだ。 「ほら、前に話したでしょ? 六年前まで山に住んでた親子の話」 「ああ。お前の親父が疎外したっていう、俺たちが会うはずだった子供だな。リュウキがショウキのために創ったのが俺たちで」 「会えるはずだった日に、ショウキがいなくなった……」  ハンは山に住んでいたショウキの父、リュウキが息子のために創った般若の面の化身だった。丁度ショウキが姿を消した日に目を覚まして山から現れたので、目的の人には会えずじまいで今に至っている。 「お父さん、そのショウキのことをもう諦めろって言うのよ。自分から出ていったんだから帰ってこないって言うの。酷いでしょ?」  ハンは何も言わない。ナツキの父親が言うことも一理あるからだ。しかしすべてを肯定する気はハンにもなかった。その証拠に、今も“捜している”。  座り込んでいるナツキの肩に、ハンは艶やかな白く幼い手を置いた。 「捜そうな」  ハンの淡い苦笑の中に真剣さを垣間見たナツキは、慰めるようにそう言って励ましてくれるハンへ、決意表明とばかりに強く首を縦に振る。  その時、少し遠くの方で悲鳴が聞こえた。
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