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終わって、背後にいる村人に顔を向ける。村人の恐怖は魔物を追い払っただけで収まらないのは分かっていた。
「今、手当てを……」
と近づいた村人の背後から、もう一匹の黒い獣(まもの)が飛び出した。
「危ない!」
マリは村人を救うべく、咄嗟に身を挺す。
その時、不自然な風がマリの頬を撫でた。背筋を凍らすにはまだ遠い、だが冷たい風。
それを感じる間に魔物の勢いが失われ、マリの足元にどさりと倒れた。動かない。
魔物の腹には刃物で切られたような傷がある。
辺りを見回しても、マリと村人以外誰もいない。
(……いったい)
マリはその疑問を頭の隅に追いやり、とにかく村人の手当てに向かった。
「大丈夫ですか?」
そうでないことは一目瞭然だったが、一応優しく声をかける。
その声に触発されて、村人は尻餅をついたまま後退しようとした。
「く、来るなっ」
いつものように拒まれる。マリは穏やかさ含んだ優しさを壊さないよう苦笑して、傷の具合を確かめた。
「少し沁みると思いますが、我慢してくださいね」
と言って懐から取り出したのは草色の液体。
「や、やめろ」
布を取り出して染み込ませ、振り払われようとも無理矢理傷口に貼ってやる。
傷に沁みるのだろう。村人の呻きを痛ましく思いながら、適切な処置を施していく。
血にまみれた村人の脚が、数分後には手当てを受けて綺麗になった。
「これは応急処置ですから、村に帰ってちゃんと診てもらってくださいね」
マリの笑顔で、村人の震えは少し落ち着いたようだ。怯えの色が完全に消え去ることは難しいが。
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