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「シンタさん」
シンタの愚痴が一通り終わって静かになってから、ナツキはようやく二人になった目的を果たそうと行動に出た。
「どうして姫たちのこと、怖がるんですか?」
村で姫たちの話をするのは父の目もあって控えてきたが、ずっと誰かに訊きたいことだった。今訊く分には不自然ではないはず。
深刻なナツキに対し、シンタはさっきの態度同様に愚痴の続きを吐き始める。
「そんなの当たり前だろ。あんな得体の知れないものに恐怖するなって方が無理な話だ。人間の形をした化け物なんだ、あいつらは」
「でも、彼女たちが危害を加えてきたことはないですよね? なのにどうして初めから邪険にしたりするんですか?」
シンタは露骨に眉根を寄せた。
「危害を加えたことがない?何言ってる。この山を訪れた奴はみんな言ってる。あいつらが魔物を使って村を襲ってるってな。現に今さっき俺はあいつが魔物を操るのを見たんだ。そんな奴ら受け入れられるか!」
魔物が出始めた時期と姫たちが現れた時期は二、三年のずれがあるにも関わらず、そんなことまで言われている。たぶん言い出したのは父、ハルキ。
「でもマリ姫はシンタさんの脚の手当てをしてくれましたよね?危害を加える人がそんなことするでしょうか?」
ちらっとシンタの様子を窺うナツキ。少しは今の言葉に動揺してくれると思ったのだが。
「何やったか分かったもんじゃないだろ!何かされたんだ。だから村に帰ったらすぐ医者に診せて、そんで全部やり直してもらう……っ!?」
突然支えを失って、シンタが豪快に倒れた。ナツキの手がシンタの腕から放れている。
「ふーん、そーですか。なんとか歩けるまでに手当てしてもらって、感謝の気持ちもないと?」
恨みがましく相手を見下した後、ナツキは額に青筋を残しながらニコっと笑った。
「じゃ、もう平気ですよね、脚?」
「え?」
そしてあからさまにシンタから離れる。
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