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「あとは一人で行ってください。私、用事を思い出したので失礼します」
「え、ちょっとナツキちゃんっ」
「心配しなくても、この先を真っ直ぐ行けば村はすぐですよ」
「そうじゃなくて!また魔物が襲ってきたらどうするんだっ」
「それこそ、魔物を操れる姫たちに頼んだらいいじゃないですか。さっきみたいにきっと助けてくれますよ」
実際、助けてくれるのだから見殺しにすることにはならない。ナツキはただ、分かってもらいたいのと、ちょっと頭にきたのとで、姫たちのありがたみを思い知らせたくなったのだ。
まだ助けを求めるシンタを無視して、ナツキは横道に逸れていった。
「あのような態度をとって大丈夫なのですか?」
シンタと離れたのでマリが姿を現した。シンタはハンに任せたようだ。
「ごめんね、またマリ姫たちの印象台無しに……しちゃったかも」
「違います。私が訊いているのは、ナツキのことです」
歩みを止めて後ろに返ると、マリはその容姿さながらの気配を漂わせて、真剣にナツキを正視していた。ナツキの意表をつかれた顔を見て、マリはさらに真剣味を帯びる。
「あなたは大丈夫なのですか? 私たちを庇ってしまったら、あなたは村人に嫌な目で見られてしまうのではありませんか?」
「あー……」
今やっと気づいたとでもいうように、ナツキは視線を上向けて考える。
「たぶん平気。だって仮にも私、村長の娘だもん。追い出すなんてできないはずだから」
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫。もう、マリ姫は心配性だなぁ」
「これくらいが丁度いいんです。ハンがああですから、つり合いが取れているでしょう?」
「あ、本当だね」
「それから、私もハンと同じくマリと呼んでくださいね、ナツキ」
肩をすくめて、ナツキは返事をしながら舌を出した。その時ふと脳裏に過った父との会話。今度は本気で勘当するぞ、とそう睨んできた父親を、ナツキは初めて見た気がする。本当に怖い顔をしていた。
だから少し不安なのだが、たぶん、実の娘を追い出すことはしないだろう。
ナツキはそう自分に言い聞かせて不安を取り除くのに努めた。
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