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魔物はすでに断末魔の叫びを上げ、倒れていた。
「油断するな!」
声に触発されてハンは自分の使命を思い出す。目の前で固まっている魔物二匹はまだ健在だ。
一つ呼吸をして、冷静になって仕事を終える。
さっきの声の主を目で追った。シンタの前に立ち見下しているのは痩身の男。旅人だろうか、裾の長いあせた灰色の外套を羽織っている。
「大事ないか?」
男の目はハンを追っていた。
「あ、ああ」
「その面……」
男の鋭い目がハンの顔から般若の面に移る。関心があるのか、右手を出して歩み寄ってきた。
ハンはその手を避けて、大切な玩具を触られたくない子供のように面を背に隠す。
「悪いけどこれは見せらんない。大事なもんだから」
「そうか。悪い」
男は執着など微塵も見せず、素直に手を引っ込めた。
(なんなんだこいつ)
先ほど吹いた冷風や静かな佇まいがそう感じさせるのか、ハンはこの男に冷たい印象を持った。しかし嫌な感じはしない。むしろこの男と会えて嬉しい。
(? なんなんだこれ)
初対面の相手に会えて嬉しいなんて、自分がどうかしてしまったとしか思えない。
「た、助けてくれぇ!」
シンタが耐えかねて男にすがりついた。
「あ、あいつはお、俺を殺すつもりなんだ」
「なっ」
「魔物に襲わせて俺を殺そうとしたんだ。頼む、助けてくれ!」
男の目がハンからシンタに移る。
ハンは自分でも意識しないままに叫んでいた。
「違う!」
いつものハンならまた呆れてさっさとどこかへ行ってしまうのだろうが、今日は違った。なぜだか、この男には誤解されたくないと思った。
「何度言えば分かるんだよ、俺じゃない、俺たちじゃないって言ってんだろ!」
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